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女子高生アイドル志望菌類系クレイジーサイコゆりっぺの 法務のお仕事

時効の完成猶予と裁判上の催告

昨年春に提出された「民法の一部を改正する法律案」が、この秋の臨時国会で目下審議中である。「120年ぶりの債権法改正」などと呼ばれる本改正案であるが、私法の一般法としての民法の位置づけからか審議は紛糾しており、来年度へのさらなる継続審議も予想される状況にあるようだ。

現行案で成立するのか、しないのか、成立するとすればいつなのか、結局いつまでにどんな対応をすればいいのか、という問題はおそらく法律に携わる多くの人々の頭を悩ませているに違いない。

私の勤め先も例外ではなく、何らかの対応が求められることになろう。では誰がその対応をするのか。それはもちろんいうまでもなく私たちである。

 

そういったわけで、法務部の末席である私のところにも、「民法改正案を検討して実務上問題となりえそうな部分をピックアップする」といったような仕事が降ってくることになる。

しかしながら、そもそも実務経験もなく、法曹資格があるわけでもないただの学部卒者には、現行民法を復習するだけで精いっぱいである。

そんな復習の中で、時効の中断について疑問に思った点が出てきたので以下にまとめたい。

 

<時効の完成猶予と裁判上の催告>

時効の完成前にした催告は、時効の中断事由となる。ただし、催告は、催告後6か月以内に裁判上の請求等をしなければ、時効の中断効を生じない(現行153条)。

また、催告期間中の6か月以内に再度催告をしても、6か月の期間が延長されるわけではない(大判大8年6月30日)。ただし、時効完成前に催告が重ねてなされた場合には、時効完成前に行われた最後の催告から6か月間の猶予が与えられると解釈されている。

さて、裁判上の請求等は、その訴えが取り下げられる等した場合には、時効の中断効を生じない(現行149条等)。しかし、当該訴訟手続等が終了するまでの間は、催告が継続しているものとみて、その終了時から6か月間はなお時効が完成しないものと解されている(裁判上の催告、最判昭45年9月10日)。

以上を踏まえると、裁判外の催告によって時効の完成が猶予されている間に形式的に訴訟を提起し、これを取り下げることで時効完成を永久に阻止することができるようにも思われる。これに対して判例は、裁判外の催告がなされた後に提起された訴訟につき、裁判上の催告としての効力は異論なく認められるが、あくまで催告である以上、催告期間中になされた再度の催告であって、猶予期間が延長されることはない、と判示している(最判平25年6月6日)。

したがって、裁判外の催告なしに時効完成前に提訴されれば、訴訟手続きが終了するまでの間は、催告が継続するものとして時効は完成しないことになろう。しかし現実には、裁判外の催告(内容証明とか)をせずにいきなり訴える、というのはあまり考えられないように思われる。

ここで、一つの疑問が生じてくる。

訴訟を起こした場合であっても、それ以前に催告をしてしまっていたら万が一訴訟を取り下げた場合には時効は完成してしまうのか。そうなれば、時効完成が間近に迫った状況で、訴訟を予定しているなら裁判外の催告を行わない方が良いのか。

これを検討するにあたって、先に述べた内容を整理すると次のとおりである。

  1. 催告中の再度の催告は効力を生じないが、時効完成前に重ねてなされた催告については、時効完成日前の最後の催告から6か月の猶予となる。
  2. 裁判上の催告は、あくまで催告として評価される。

これらを組み合わせれば、先の質問に対する答えとしては

催告による時効完成猶予期間中の裁判上の催告であっても、訴訟が依然時効完成前に提起されたものである場合には、時効完成前になされた最後の催告として、訴えの取下げ等の後6か月間は時効は完成しない。

といえるように思うのだが、どうであろうか。

前掲平成25年判例の事例は、催告による時効完成猶予期間中で、本来の時効完成日到来後の提訴であり、矛盾はしていない。

 

なお、改正民法では訴訟等が「時効の完成猶予」事由として再構成され、訴えの取り下げ等の後も6か月間時効の完成が猶予されることが明文化される。

この場合において、催告によって既に時効の完成猶予がなされている場合に訴訟を提起して、その結果権利が確定しなかった場合には、どのように取り扱われるのかは不明である。催告中の催告に関しては、時効の完成猶予の効力を生じない旨が改正民法で新たに定められることになっている。しかし、訴訟等が「時効の完成猶予」事由という明確な位置づけを得た以上、これらをもはや「催告」として扱うことはできないだろう。

では、催告中にもはや「催告」ではなくなった訴訟等の事由が生じた場合には、これらはいったいどのような結果を生じさせるのか。条文通り読めば、催告中に提起された裁判等は新たに時効の完成猶予の効力を生じ、仮に権利の確定がなかった場合には訴訟手続きの終了時から6か月間時効の完成は猶予されることになる。これは明らかに前掲平成25年判例と矛盾するように思われるのだが、私の不勉強な頭ではこれをどう考えればよいのかはもはやわからない。文言から読み取れはしないが、運用上の解釈は変わらないという理解でよいのであろうか。

 

ちなみに、この「催告中の催告」については、前述のとおり今回の民法改正で新たな規定が置かれる予定である。

改正150条

  催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。

ところが、中間試案の段階では催告に関する規定は以下のような内容であった。

民法第153条の規律を改め、催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しないものとする。この場合において、その期間中に行われた再度の催告は、時効の停止の効力を有しないものとする。」

中間試案では、「その期間中」という文言だったものが、提出法案では「時効の完成が猶予されている間」に変わっている。

「その期間中」としてしまうと、仮に時効完成前になされた催告であっても、とにかく6か月経過するまでは再度の催告は一切無意味ということになり現行解釈と矛盾してしまう。これはそうした矛盾を危惧して修正されたものと考えてよいのであろうか。

私が調べた限りではこの文言変更の理由は部会資料等からは見つけることはできなかったので、どなたかご存知の方がいたら教えていただけると幸いである。